




浮かされた一人の男が人生を振り返る──。
芸術の中心地ローマで味わう絶望感

ミラノで絵の修行をしていたカラヴァッジョが芸術の都ローマに出るため援助を依頼した相手は、コスタンツァ・コロンナ侯爵夫人。幼い頃から恋い焦がれてきた美しき夫人は、彼のためなら何でもすると約束してくれた。
ローマで画家のマリオ・ミンニーティと知り合ったカラヴァッジョは、彼の紹介でダルピーノの工房に入り込む。 夜になると、マリオや血の気が多い仲間オノリオらと街へ繰り出し、そこで情熱的な美女に釘づけになった。 彼女は高級娼婦のフィリデ。しかも元締めは街の権力者ラヌッチョ・トマッソーニで、手が出せる女ではなかった。
そんなある日、足に大怪我をしたカラヴァッジョは、マリオの愛撫で癒されていく。愛する彼をモデルに絵を描いて売ったが、日々の食べ物に困る生活に絶望し死に取り憑かれていくカラヴァッジョをマリオはまた優しく抱きしめるのだった。
上りつめた栄光の階段

窮地にあったカラヴァッジョのもとに、ついに救いの手が差し伸べられる。絵の評判を聞きつけたデル・モンテ枢機卿が宮殿の一室を提供し、すべての生活を援助してくれることになったのだ。
カラヴァッジョの絵がお披露目されるサロンには、有力貴族ジュスティニアーニ侯爵や画壇の大御所ズッカリ、人気画家のバッリョーネなどローマ中の名士が集まっていたが、カラヴァッジョは誰にも媚びることなく率直な意見を口にし、皆を驚かせる。
フィリデのことが忘れられないカラヴァッジョは、彼女をモデルにする権利を賭けラヌッチョにテニス対決を挑み勝ち取った。モデルに乗り気ではなかったフィリデだが、彼の描く絵に感動し、その熱い思いのまま二人は激しく愛し合う。 その頃、巷ではチェンチ殺害事件の話題でもちきりだった。チェンチ男爵の娘ベアトリーチェとダルピーノの工房で言葉を交わしたこともあるカラヴァッジョは、殺人の罪を着せられ首を斬り落とされる彼女の姿を目に焼き付け、フィリデをモデルに迫力あるユディトの絵を完成させる。だが、フィリデは、娼婦としての暮らさなければならない自分を理解してくれないカラヴァッジョと言い争い、泣きながら去っていく。
フィリデとの別れからまたしても放蕩に明け暮れるカラヴァッジョにとって、最高に名誉ある仕事がもたらされる。それはサン・ルイジ・デイ・フランチェージ聖堂の絵画制作。《聖マタイの召命》《聖マタイの殉教》の誕生でローマ中の賞賛を浴びたカラヴァッジョが、誰よりも作品を見せたかったコロンナ夫人もその栄光を称え、これからは家族を持ち落ち着いた生活が必要と勧めるが、彼は夫人に永遠の愛を捧げると告白するのだった。
最愛の女性と引き裂かれ…

その頃、教会では異端粛正が続き、火刑に処せられたドミニコ会修道士ジョルダーノ・ブルーノの末期の苦悶を見届けたカラヴァッジョは、聖人も人間だと考え《聖マタイと天使》を描く。しかし人間的すぎる聖人像だと教会に受け取りを拒否され、街での乱闘騒ぎで鬱憤を晴らすしかなかった。
すでにスペイン派が多勢を占めていた教会では、フランス派のデル・モンテ枢機卿にカラヴァッジョを擁護する力はもうなかった。宮殿を辞した彼は、街の娘レナをモデルに呼び寄せ二人で暮らす。レナはかつてカラヴァッジョに助けられ、お返しに牢獄から出てくる彼をじっと待ち続けていたのだ。心優しく、信頼と愛情を寄せてくれる彼女に、カラヴァッジョは初めて安らぎを得る。
しかし、デル・モンテ枢機卿に依頼され、新教皇に初めて献呈する大切な絵のモデルに庶民のレナを使って《ロレートの聖母》を描いたカラヴァッジョは、教会の非難にさらされる。その上、最愛の人レナにも危害が及び、逆上したカラヴァッジョはトマッソーニの仕業だと決闘を申し込み、怒りのままに彼を刺し殺してしまうのだった。
転がり落ちる運命の果てに

重傷を負ったカラヴァッジョはナポリのコロンナ邸に運び込まれ、夫人の必死の看護によって傷は癒えた。がそこに届いたのは、恐るべき死刑宣告の通達。動揺するコロンナ夫人に、カラヴァッジョの芸術を誇りに思っていた夫人の息子ファブリツィオは、マルタ騎士団の庇護を必ずとりつけると約束する。
カラヴァッジョはマルタでヴィニャクール騎士団長をはじめとした騎士たちに手厚くもてなされ、渾身の一作《洗礼者ヨハネの斬首》が騎士たちの感動を呼び、ついに名誉騎士に叙任される。だが彼を憎む上官の罠にはまり牢につながれ、カラヴァッジョの味方をする騎士たちによってひそかにシチリアへ逃げのびた。そこでローマ時代の友マリオと再会を果たしたカラヴァッジョは、追っ手に殺される恐怖に怯えながら、残された力を振り絞るように教会の絵に取り組んでいく。
一方ローマでは、デル・モンテ枢機卿をはじめとするパトロンたちや、コロンナ侯爵夫人やフィリデまでもが恩赦嘆願のために捨て身の覚悟で力を注ぎ、そのお陰で教皇による恩赦の知らせがやっとシチリアに届いた。カラヴァッジョは、芸術の都ローマに戻れる、そしてコロンナ夫人と再び会えるという喜びにうち震える。 だが、運命は過酷だった。ローマに戻る途中の港で官憲に誤認逮捕され足止めをくらい、教皇に献呈する絵画を乗せたまま離れていった船になんとか追いつこうとするカラヴァッジョに、死の影が忍びつつあった……。

